人事のバズワード「人的資本経営!」人材戦略に重要な3つの視点とは

こんにちは、AMBヒトラボの藤野です。人的資本経営。今、経営者と人事部の皆さんの一番のバズワードではないでしょうか。

前回ご案内した人材版伊藤レポートは、上場企業を想定した内容となっています。もっと言うと、上場企業の中でも人材版伊藤レポートが示唆する内容すべてを実践できる体力のある企業は、現時点ではほんの一握りだと思います。

今回はさらに内容を深堀し、人材戦略に重要な3つの視点と5つの共通要素についてお伝えしていきます。特に3つの視点についてのビジネス実感をお伝えしたいと思います。5つの共通要素については、第3回目以降のコラムにて詳しく触れていきます。

◆日本企業が「人的資本経営」に取り組む理由

さて、中堅・中小企業の皆様がレポートを一読された時、「ちょっとうちの会社には荷が重い」「まだそこまでのステージになっていない」「CHROどころか人事は数人で回している」「理屈はわかるが現実は違う」などと直感的に感じてしまわれると、せっかくの示唆に富む内容が理解・実践されないままになってしまいます。

私は今のAMBヒトラボで人事研究の仕事をする以前、従業員が数名の企業から5万人を超える企業まで、また様々な業種の企業に実際に在籍しました。その中で、ありがたいことに、経営者、人事責任者、事業責任者、営業責任者などを経験する機会を得ました。実際にいろいろなポジションでビジネスに携わってきた経験を踏まえても、この人材版伊藤レポートの主張は本質的であり、とてもしっくりきます。人事戦略の重要性を改めて認識し、「考え方のフレームワーク」を素直に受け止め、そのうえで自社の実態に合わせた施策を実践していくことが大切だと思います。

日本企業は、バブル以降30年間のたまりにたまったマクロ・ミクロ経済の負の蓄積を背負い、少子高齢化、財政危機、地政学リスク、周回遅れのDX、極端な円安などといった厳しい茨の道を今後も歩き続けなければなりません。目も眩むばかりの逆境ではありますが、その中で希望を見出すことができる突破口があるとすると、それは「ヒト」です。今は、その「ヒト」の生産性が国際的にみて低いというネガティブな状況ですが、ここからの大逆転を真剣にトライしなければなりません。

◆人材戦略に重要な3つの視点と5つの共通要素

人材版伊藤レポートの内容について、少し考えを深めてみようと思います。レポートでは人材戦略について、3つの視点と5つの共通要素を挙げています。

3つの視点とは以下です。
1. 経営戦略と人材戦略の連動
2. As is-To beギャップの定量把握
3. 企業文化への定着

そして、経営戦略実現のための人材戦略に必要な共通要素として以下の5つを挙げています。

  1. 動的な人材ポートフォリオ
  2. 知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
  3. リスキル・学び直し
  4. 従業員エンゲージメント
  5. 時間や場所にとらわれない働き方

3つの視点の中では、レポートでもあるように、経営戦略と人材戦略を連動して構築・実行すること、このことが一番重要です。

人材戦略とは、あくまで経営戦略を実現するための方法論であるべきですが、一部の大企業やスタートアップ企業を除く大半の企業の実情はむしろ人材戦略ドリブンだと思います(結果としてそうなっているケースがほとんどだと思いますが)。高度成長期からの日本的経営のレガシーがまだ根強く残っている企業の場合、実在する社員達を前提として、その社員達がやり方を大きく変えずに手が届く範囲で何ができるかを考えるケースが多いです。

経営戦略が、その事業が持つ本質やグローバルな競争環境、新技術動向などを踏まえて決定されるのではなく、これまで既存の社員達が行ってきた実績をベースに「ボトムアップの現場改善型」になるのです。このアプローチが必ずしも悪いわけではもちろんありません。ただ、「ヒト」による突破口を作っていくためには、あるべき経営戦略を人材戦略と連動してしっかり定めていかないと、日本企業の未来は依然暗雲たれ込める状況が続くことになります。

◆自社の社員を守るためには変化が必要!?

私が経営者になって初めて実感したこと、それは私が人事の責任者だった時、正しいと思ってやっていたことは、実は経営者にとっての抵抗勢力だったかもしれないということです。人事をやっていると生身の人を目の当たりに仕事をしなければなりません。一人ひとりに本人、ご家族のそれぞれ斟酌すべき個別の事情や考え方があります。そして人事マンも、同じ釜の飯を食べている同僚に敢えて嫌われたくはありません。円滑な業務運営ということを前提とすると、どうしても「変化」ではなく、「継続」を選択したくなります。

経営者が企業の長期的成長や生き残りをかけて決断しようとすることに、「自社の社員を守る」というもっともらしい名目で柔らかく異を唱えることが多かったと思います。本当の意味で自社の社員を守るためには変化が必要だった、と今思い返すとわかることも、当時は「自分の考えが正しい」「経営者は生身の社員の現実を見るべきだ」「ESが重要だ」など、「できない理由」を並べ立て、しかも自分では「会社のために正しいことをしている」と確信を持っていました。

言うまでもありませんが、あまりに現実離れした経営戦略を採って、社員がまるで納得できない、というようなレベルのことをお話しているのではありません。

合理的で知恵を絞り、策を打ち立てればトライする価値のある経営戦略であったとしても、人事の現場は社員にストレッチを要求することに躊躇しがちだと思います。社員にトラブルが生じたり、社員に不満がたまる時に対峙し責任を取るのは他ならぬ人事だからです。

リスクマネジメントを行いながら、経営戦略を実現するために手を尽くす、というのは、言うのは簡単だし、「やるべきだ」と言われてしまうと、「そうですね」と言うしかないのですが、難易度が極めて高い業務だと思います。その意味で、人事が経営者から距離があり、人事だけが単独で責任を取るような組織設計をしてしまうと、結局人事の現場は動けなくなってしまいます。人材版伊藤レポートが経営戦略と人事戦略を連動させて、人事責任者をCHROとしてCEOと共同で経営することを強く提唱している所以です。

◆ギャップの定量把握と、企業文化への定着

伊藤レポートの3つの視点の残りの2つ、

2. As is-To beギャップの定量把握
3. 企業文化への定着

は、人事が機能不全に陥らないための大事な提言だと思います。

科学的にAs is-To beギャップの定量把握ができれば、合理的に経営戦略を立案することが可能です。人事もそのギャップをどう埋めるか、経営者と正しく議論ができるはずです。逆に定量把握ができないと、人事は本能的に変化を恐れ、どうしても抵抗勢力にならざるをえないと思います。そういう意味では、このギャップの定量把握という業務自体が、人事にとってファーストプライオリティの業務といえます。

そして、経営者と人事が一体となって社員に対してギャップを埋める人材戦略の必要性を常に訴え続け、中間マネジメント層がその人材戦略を理解したうえで実践する状態、いわば刷り込まれた企業文化にまで高めていくことができれば、企業は成長を続け、ヒトの生産性は上がり続け、やがて日本の生産性は国際水準を凌駕していくことになります。

社員一人ひとりにとっても、個々の企業にとっても、国にとっても、win-win-winの状態になるのです。そして、このことが私達日本企業の唯一の選択肢と思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。皆さまの日々の業務に少しでも気づきがあれば幸いです。次回は、人材戦略を策定するうえで必要な5つの要素について、具体例も交えて書かせていただきます。

こうした人事戦略についての情報交換もぜひさせていただければ幸いです。お気軽にお問い合わせください。

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